君にさよならを告げたとき、愛してると思った。



こうなってから、私は一度でも自分の気持ちをちゃんと伝えただろうか。好きだって、別れたくないって、一度でも言っただろうか。


言えるわけがなかった。郁也はもう私に気持ちがないことをわかっているのに、そんなことをして、面倒な女だって、余計に嫌われるのが怖かった。


『別れたくない』なんて言ってしまえば、郁也が別れたがっていることを認めることになる。


でも、彩乃の言う通りだ。自分の気持ちを伝えなければ、なにも伝わらない。


「……彩乃、ありがとう」


電話を切った私は、閲覧していた動画配信サイトを閉じて、郁也がいつも動画編集をしていたソフトを開いた。


その下にはタイトルのないフォルダがあり、開いてみると、郁也が作曲していた曲が入っていた。
動画編集なんてしたことないし、パソコンだって得意なわけじゃない。


でも郁也が編集や投稿をしているところを隣で見ていたから、なんとなくだけど覚えてる。幸い、動画編集ソフトはあの頃使っていたものと変わっていないようだった。


私が最後に残せるものはこれしかない。


彩乃、ごめんね。せっかく言ってくれたのに、泣いてくれたのに、ごめん。


離れたくないって、別れたくないって、泣いてすがりつけたらどんなにいいだろう。