当たり前だ。どんなに悲しい曲を歌っていても、目の前にはギターと私を交互に見ながら弾いている郁也がいたのだから。
「はなびら、だ」
何曲か再生していくと、下部の関連動画に『はなびら』が表示されていた。この曲はまだ歌えないって言ったのに、郁也は承諾してくれなかったっけ。
好きだった人を想って涙を流した曲だったのに、今はもう郁也と付き合ったキッカケの曲になっていた。
「思い出せなくなるその日まで」
この曲は、郁也と付き合った日に、郁也の部屋で流れていた曲。
他の曲も全部、全部、全部。なにを聴いても、思い出すのは郁也のことばかりだった。
本当だ。全部郁也に塗り替えられてる。
「嫌だなあ、もう」
熱を帯びた目から、涙が流れた。
拭っても無駄だということはわかっていたから、手を動かすことはしなかった。顎に伝った涙は、私の服に染みをつくっていく。
勝手に全部塗り替えたくせに、勝手に離れていかないでよ。
こんなにも悲しい曲を、どうして平気で歌えていたのだろう。
きっと幸せな未来を想像していたからこそ歌えていた。今歌えと言われたら、とてもじゃないけど歌えない。歌い切る自信がない。
でもそのぶん、いい歌が歌えそうな気もする。
「……はは、染みるなあ」


