君にさよならを告げたとき、愛してると思った。



パタン、とドアが閉まる。


玄関の先に続く廊下。その先にある、リビングへと繋がっているドアを開ける瞬間が好きだった。


郁也は帰りが遅いから出迎えてくれたことはあまりないけれど、それでも、郁也の気配や香りが確かにあって、私のことをふわりと包み込んでくれていた。


今はもう、郁也の気配も香りもあまりない。当たり前だ。郁也はもうほとんどこの家にいない。寝るために帰ってくるだけだ。


「自分の家なのに」


乾いた笑いが出た。


おかしな話だ。自分が転勤になって、自分が選んだ自分の家なのに、自分はほとんど家にいないなんて。


部屋で撮影できるようにと2LDKのこの家を選んだはずなのに、撮影したのは何回だったんだろう。


あんなに落ち着いたはずのこの家も、今はもう落ち着かない。南向きのこの部屋も、今の私の目に映る景色はモノクロだ。


越してきてからしばらくした頃、向かい側にはあっという間に十階建てのマンションが建った。すぐそこが空き地になっていることなんて、あの頃の私は気付かなかった。


いや、気付いていたとしても、きっと疑問に思うことすらなかった。