君にさよならを告げたとき、愛してると思った。



責任のある仕事をしていたとしても、どんなに引き留めてもらえたとしても、家を出なければいけないことには変わりないのに。


例え追い出されなかったとしても、退職日が伸びれば伸びるほど、郁也の気持ちがどんどん離れていくだけなのに。


退職日の翌日、荷造りをしなければと思いながらも、なぜかどうしてもそんな気分にはなれなくて。気分転換に外をブラブラしようと、大通公園をひとりで歩いていた。


もう三月中旬だというのに、まだ桜の気配はない。名古屋はもうすぐ満開かな。


当たり前か。まだ雪が残っているし、確か去年咲いたのは四月の終わり頃だった。そういえば一年前に初めてきた時、『四月って冬?』と笑いながら話したっけ。


並んで歩いたこの並木道を通れるのも、あとたったの二週間なんだ。


せっかく越してきた憧れの地。空気は綺麗だし、ご飯もお酒もおいしいし、夏は涼しいし、ずっと住んでいたいと思っていた。


仕事だって、クレームが多くて辛いこともあるけれど、人には恵まれていたし楽しかった。


だから、この街に残るという選択肢ももちろんあるけれど、私にはその選択はできなかった。


郁也がいるこの街に、郁也との思い出しかないこの街に、ひとり残る勇気なんて私にはなかった。


去年は満開の桜並木道を歩くことはできなかったけれど、北海道は空気が澄んでいるから、桜もきっと綺麗なんだろうな。


来年は満開の桜を見に行こうって、お花見をしようって、話していたっけ。


でももう、一緒に見られそうもないな。