君にさよならを告げたとき、愛してると思った。



もわもわと湯気が立って、私の顔が、目が、少し熱を帯びた。


「そんな時に、俺が悩んでること気付いてくれて……話聞いてくれたのが中谷だった」


コト、と、テーブルの端と端にマグカップをふたつ置いた。


郁也は甘党だったから、学生時代は砂糖とミルクが入っていないと飲めなかったのに、いつからブラックで飲めるようになったんだっけ。


「でも浮気はしてない。あいつのことは……なんとも思っていない」


マグカップを両手で持って、ふう、と息を吹きかけてから、口をつけた。


私はまだ、ブラックコーヒーは飲めない。大人になれば、当たり前に飲めるようになると思っていたのに。


「……最初はニコニコしてるお前見ただけで疲れなんか吹っ飛んでたのに、正直……のん気だなってイラつくようになった。地元にいた頃は心に余裕があったから許せてたけど、今は……好きだったはずのところも許せなくなった」


私は何度もこのマグカップを使っているけれど、郁也が使ったのは何回目だろう。もしかしたら今日が初めてかもしれない。


遅くに帰ってきた郁也に、こうしてコーヒーを淹れてあげればよかった。飲んでくれていたかは、わからないけれど。


「お前のこと、好きだけど……正直、お前のことまで考えてる余裕ない」