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《ちゃんと話そう》
メッセージを送ったのは、二月の終わり。もうこんな状態が二か月も続いている。ううん、もっと前から、少しずつ溝が深まっていた。
ちゃんと話さなきゃダメだ。けれどなかなか返信はこなくて。『今から帰る』と久しぶりに電話がきたのは深夜だった。
電話を切った三十分後に玄関の鍵を開ける音が聞こえて、コートとジャケットを手にリビングのドアを開けた。
郁也がインターホンを鳴らさなくなったのが先だっけ。私が出迎えなくなったのが先だっけ。
ほんの数ヶ月前のことなのに、どうして思い出せないのだろう。まるで記憶に靄がかかっているみたいだ。
「……正直に話して。浮気してるの?」
ソファーに腰かけた郁也を、床に座ったまま真っ直ぐに見た。
「……してねぇよ。俺が浮気できるわけねぇだろ」
聞いたことのある台詞。前に聞いた時は、怒りながらもちゃんと郁也のことを信じていたっけ。
どうしてあの頃みたいに信じることができないのだろう。どうしてあの頃みたいに、真っ直ぐに目を見て言ってくれないのだろう。
あの頃みたいに、『ユズだけが好き』って、もう言ってくれないの?
「……中谷さん、は?」
--ああ、郁也はやっぱり嘘が下手だね。


