あんなにも大切に扱っていたギターを、乱暴に床に置く。その反動で小刻みに震えた弦が、力なく鳴った。
笑ってる顔が好きだって--言ってくれたのに。
「お前と違って正社員で働いてて、責任とかいろいろあるんだよ。お前にはわかんねぇだろうけど」
正社員じゃなくていいって言ったの郁也じゃん--。
……違う。こんなのは言い訳だ。
最初はあんなにも正社員にこだわっていたのに、面接がうまくいかないからって、郁也に言われてすぐにその選択肢をあっさり捨てた。
まだ甘えられる立場じゃないことをわかっていたのに、結局甘えてしまっていたのは事実だ。なにも言い返せない。
今回だけじゃない。私はきっと、ずっと郁也に甘えていた。
再び私に背中を向けた郁也は、床に置いたヘッドホンをつけて、ギターを持って、アンプを繋げた。
背中を向けられたというのに、私はどこかでホッとしていた。怒りに満ちた顔を見るくらいなら、冷たい目を向けられるくらいなら、背中を向けられる方が何倍もマシだった。
いつからだろう。『歌って』と言ってくれなくなったのは。言われなくても、私が勝手に歌うようになったからかな。
聴こえてきたメロディーは、途中まで弾いていた曲ではなく『ヒロイン』だった。ゆっくりと、イントロが流れていく。


