君にさよならを告げたとき、愛してると思った。



どうして今、私の中はこんなにも『怖い』で埋め尽くされているのだろう。


「どういう意味?」


背中を向けられたままだけれど、それでも声のトーンでわかる。郁也が苛立っていることが。


怖い。怖い。どうしようもなく、怖い。


「……飲みに行くのは、もちろん、いいんだけど。……たまにでいいから、もう少し、帰ってこられないかな。前は……ここまで頻繁に行ってなかったよね?」


私、今まで郁也とどうやって話していたっけ。どういう風に聞けばいいのか、どういう風に言えばいいのかわからない。


なにを言えば郁也が怒らないのか、笑ってくれるのか、もうわからない。


「だから、断ってただけだって。前に言ったろ」


「……そ、か。でも正直……毎日ずっとひとりでいるのは、寂しいっていうか」


「寂しいのはわかるけど、上司に誘われる日もあるし、取引先と会食もあるし。断るわけにいかねぇだろ」


上司や取引先と行ってるなんて、今まで言ってなかったのに。


私が知らなかっただけ? 私が聞かなかったから?


それとも。


「でも、だからって、こんな毎日遅くまで……」


やっと私を見てくれた郁也に、安心することなんてできなかった。


郁也の表情は、今まで見たどんな表情よりも、怒りに満ちていた。


「家でヘラヘラ笑ってるだけのお前にはわかんねぇよ!」


初めて聞いた郁也の怒鳴り声に、身体が大きく跳ねた。