君にさよならを告げたとき、愛してると思った。



郁也はもう出かける予定がないのか、再び家から出ていくことはなかった。


スライドドアの向こうから、エレキギターの音が聞こえてくる。


郁也が奏でるギターの音色が大好きだったはずなのに、今はただジャカジャカと鳴っているだけに聞こえるのは、大きなドアに遮られているせいだろうか。それとも、聞こえてくる曲が、私の知らない曲だからだろうか。


じわじわと熱を帯びていく目をぎゅっと閉じて、開けた。大きく息を吸って、吐いた。


ソファーから立ち上がり、目の前に立ちはだかっているスライドドアに手をかける。カラカラと力ない音を立てて開いたドアの先には、ヘッドホンをつけている郁也の背中があった。


「フミ」


指先で、背中とトントンと軽く突く。手を止めて振り返った郁也は、ヘッドホンを外して、アンプとギターを繋いでいるコードを抜いた。


そんなことにさえホッとした。まだ私の話を聞いてくれるんだ、と。


私の目を見ては、くれないけれど。


「……仕事、まだ忙しいの?」


かすれた声は少し震えていた。鼓動が速まっていくと、手も少し震えだした。


怖い。


笑わない郁也を見て、素直にそう思った。


キツく睨みつけられたことも、怒られたことも、何度もあるのに。それでも、怖いと思ったことなんて一度もなかったのに。