《今日は帰らない》


二月に入ってニ回目の金曜日。


日付が変わる頃に受信したメッセージを見て、缶ビールを持ったまま、一瞬頭が真っ白になった。


帰らないって、どういうこと?


こんなのは初めてだ。どんなに帰りが遅くても、連絡がこなくて、最後にはちゃんと帰ってきてくれると信じていたのに。


誰かの家に泊まるってこと? 家に泊まるほど仲のいい友達がいるの? それとも--。


わからない。だって私は、もう郁也もことをあまり知らない。郁也にとって一番近い存在だと言える自信がない。


こんなに近くにいるのに、とてつもなく遠い。


《嫌だ。遅くなってもいいから、ちゃんと帰ってきて》


引き留めたのは初めてだった。また身体のどこかから警告が出ている。引き留めなければいけない、と。


返信はこない。電話にも出ない。


待っても待っても、郁也からの連絡がくることも、玄関のドアが開くこともなかった。


眠ることなんてできなかった。何度目を閉じても、何度目を開けても、そこに郁也の姿はなくて。


ポツンとソファーに座っていた私の視界にやっと郁也が映ったのは、昼過ぎだった。


「……仕事は?」


リビングのドアを開けた郁也は、私を見て開口一番にそう言った。