「真剣にやってるはやってるけど、単なる趣味だよ。勘違いしてそうだけど、プロになる気とかもないから」


「え? そうなの?」


「俺、卒業したら普通に就職するつもりだし。俺程度の腕前じゃプロになるなんて到底無理だよ。世の中そんなに甘くねぇだろ」


なんだ、意外と現実的なんだ。


プロ目指してるんだろうな、と思いっきり勘違いしていたけれど、あんなに真剣なまなざしで何度も語られたら、そりゃあ勘違いするでしょうよ。


「動画撮るだけなんだからいいじゃん。歌、好きだろ?」


「……好き、だけど」


「ボーリングでも居酒屋でもずっと心ここにあらずって感じだったのに、歌ってる時はすげぇ生き生きしてて、歌うの好きなんだなって思った」


私も思った。音楽が好きなんだろうなって。


「話してて思ったけど、お前さ、普段話してる時と歌う時、声も雰囲気も全然違うじゃん。それに、声量あるし高音もよく伸びてる。ちょっとピッチずれる時もあるけど、もともと音感いいから練習したらすぐうまくなるよ」


『うまいね』とざっくり褒められることはあったけれど、こんな風に言われたのは初めてだった。


これ以上なにも言わないでほしい。そんなに真っ直ぐ目を見つめないでほしい。


目をそらすことができなくて、カラオケの時よりもずっと、体から湯気が出てしまいそうなほど全身が熱い。