よほど疲れていたのか、目覚めると昼過ぎだった。うっすらと目を開けても、隣に郁也はいなかった。
ベッドからおりてドアを開けると、リビングには着替えている郁也の姿があった。
「あ、起こしちゃった? やっぱり今日、出かけることになって」
予定ないって、言ってたのに。
不思議とショックは受けなかった。もう慣れたのかもしれないし、こうなることはわかっていた気もする。
「……ん」
言葉が出てこないのはどうしてだろう。『おはよう』って笑うことも、『また出かけるの?』って怒ることも、『行かないで』って泣くこともできない。
氷点下の街は、私の身体だけではなく心までも凍らせてしまったのかもしれない。
いってきますと言わなかった郁也の背中に、いってらっしゃいとは言えなかった。