君にさよならを告げたとき、愛してると思った。



家に帰ると、郁也はコートとスーツのジャケットを脱いでソファーにかけた。クローゼットから着替えを取り出してバスルームへ向かう。


郁也が出てきたら私もお風呂に入りたい。ファーストフード店は暖房はついていたけれど、身体を芯から温めてはくれなかった。


暖房が弱かったのだろうか。窓側に座っていたせいだろうか。それとも。


「ユズ」


いつの間にかソファーで眠ってしまっていた私の肩を、郁也が小さく揺らす。懐かしい手の感触に、うっすらと目を開けた。


目の前にある郁也の、奥二重の大きな目。大学の頃よりも短くなった、少し癖のある前髪。


毎日一緒にいるのに、こんなに近くで、こんなにハッキリと郁也の顔を見たのはいつ以来だろう。懐かしいとさえ思った。毎日会って、毎日同じベッドで眠っているのに、変なの。


「こんなとこで寝たら風邪ひくぞ」


なにを言ってるんだろう。平気で二時間も待たせたくせに。


暖房で部屋はすっかり暖まっているというのに、右手でさすった肩はまだ冷たかった。


ちゃんとお湯に浸かって温まってから眠りたい。また風邪を引いてしまったら困るし、あんな辛い思いは二度とごめんだ。でも、お風呂に入る気力がない。なんだかもう動きたくない。


「……ちゃんと、ベッドで寝よう。おいで」