君にさよならを告げたとき、愛してると思った。



郁也から電話がきたのは、お店に入ってから二時間後だった。


スマホの充電は、残り七%。


『今どこ? もう家?』


なにを言ってるんだろう。ていうか、第一声がそれなんだ。


「家になんか帰れないよ」


無意識に声が低くなる。嫌な言い方をしてしまったとは思ったけれど、他になんて言えばいいのかわからない。


「今すすきのにいる」


店名を言うと、『わかった』とだけ言って電話が切れた。


……あ。私、なにしてるんだろう。カード使えばよかったじゃん。バカだなあ、私は。


五分も経たずに、郁也は車で迎えにきた。お酒は飲んでなかったんだ。


明日は休みだし、会社まで車を取りに行くのが面倒だったから? それとも、私が待っていると思ったから?


前者の方がまだマシだと思った。もしも後者なら、感情のままに罵ってしまいそうだった。私が待っていることがわかっていたのに、どうしてもっと早くきてくれなかったの、と。


窓の外を見ながら、郁也の話に相槌だけ打ち続けた。郁也も途中から喋らなくなった。


なにも言わなかった。なにを言えばいいのかわからなかった。


私と約束していたのに、どうして断ってくれなかったの? もう終電がないのに、どうしてきてくれなかったの? どうして--『ごめん』って言ってくれないの?


落ち着かなければと自分に言い聞かせているのに、そんな、郁也を責める言葉ばかりが溢れてくる。


こんなに一緒にいるのに、ずっと一緒にいたのに、もう郁也が何を考えているかわからない。