君にさよならを告げたとき、愛してると思った。



車で帰ると思っていたから、こんな日に限って薄着で。前にもこんなことがあった気がする。確か、北海道へ越してきた日だったっけ。


私も郁也も薄着だったから、三月の北海道の寒さに驚いて、ふたりで肩をすくめて、でも笑い合って。


まだ一年も経っていないのに、遠い昔の出来事のように感じるのはどうしてだろう。


スマホのナビを使いながら歩いて帰るしかないと思ったけれど、こういう時に限って充電がほとんどない。そういえば昨日は疲れ切っていて、充電するのを忘れて寝てしまった。


嫌なことって重なるものだ。乾いた笑いは白い息となって、ゆらゆらと空に消えていった。


すすきのからマンションまで歩いて帰ったことなんてないし、道は全くわからない。郁也の運転ですすきのにきたことはあるけれど、いつも窓の外ではなく郁也のことばかり見ていたっけ。


こんなことになるなら、外にも目を向けて、少しでも道を覚えておけばよかった。バカだなあ、私は。


ナビを起動したまま二時間以上もつだろうか。もし途中で充電が切れてしまったら、本当に帰ることができなくなってしまう。本当に道に迷ったら洒落にならないし、郁也からの連絡を待つしかない。


とりあえずどこでもいいからお店に入ろう。いつ連絡がくるかわからないこの状況で、薄着のまま外で待つのは自殺行為だ。