君にさよならを告げたとき、愛してると思った。



郁也と行くのは居酒屋ばかりだけれど、女の子同士だとダイニングバーへ行くことも多い。


テーブルごとにカーテンで仕切られているこのダイニングバーは、料理もおいしいしお酒の種類も豊富で、私たちのお気に入りのお店だった。


お互い彼氏がいるから、いつも彼氏の話ばかりしていたけれど、今日はなぜか話す気にはなれなくて、聞き役に徹していた。


なにを話したらいいのかわからない。彼氏の愚痴を言い続ける彼女を見て、羨ましいとさえ思った。私も彩乃に郁也の愚痴を言ったりしていたのに。その時は本当に怒っていたのに。


もしかしたら、愚痴を言うことさえも、幸せの証だったのかもしれない。


そんなことを思いながら、彼女の話に相槌だけ打ち続けた。


「あ、もうすぐ終電じゃん。彼氏は? 連絡きた?」


すぐそばに置いてあるスマホは一度も鳴っていない。一応確認してみたけれど、やっぱり連絡はきていない。


帰る支度をしながら連絡をすると、すぐに《もうすぐ解散》と返ってきた。


よかった。遅くなっても、ちゃんときてくれるんだ。


「もうすぐ解散だって」


「そっか、よかった。じゃあ、また月曜ね」


手を振ってすすきの三番出口に消えていく彼女を見送った。


そういえば、郁也はどこにいるんだろう。今日は車で出勤していたけれど、お酒は飲んだのかな。