《飯行くことになった》
二十時になり仕事を終えてスマホを見た私の目には、そんなメッセージが映っていた。
なに、それ。
私と約束していたのに。一緒に帰ろうって言ったの、郁也なのに。
ねぇ、どうして? どうして断らないの? どうしても断れない状況なの?
「ユズちゃん、どうしたの?」
更衣室でスマホを持ったまま立ち尽くしている私を見て、同期で一番仲がいい女の子が言った。
「あー……彼氏と帰る約束してたんだけど、職場の人とご飯食べに行くことになったみたいで……」
どうしてこんなことで落ち込んでるんだろう。わかったよ、じゃあ今日は先に帰ってるね、家で待ってるねって、何ヶ月前までなら言えたのだろう。
何ヶ月前なら、こんなことで不安にならずに済んだのだろう。
「じゃあ、一緒にご飯行かない?」
「え? いいの?」
「当たり前じゃん。せっかくの花金だし、飲みに行こうよ」
にっこりと微笑んで、早く行こうと私の腕に細い腕を絡める。
よかった。ひとりで帰るしかないと諦めかけていたけれど、今日はひとりになりたくなかった。家にひとりでいることなんて、もう慣れたはずなのに。
《私も職場の子とご飯行くことになったから、終わったら連絡してね》
郁也に連絡だけして、すすきの方面までふたりで歩いた。


