君にさよならを告げたとき、愛してると思った。



翌朝、郁也のスマホのアラームが鳴った。


郁也はもう起きていて、今はシャワーを浴びている。私は遅番だからまだ時間があるし、なんだか身体がだるいから、もう少し眠りたい。


置き去りにされているスマホに人差し指を伸ばして『停止』をタップすると、次に画面に表示されたのは『パスワード入力』という文字だった。


郁也はスヌーズを解除し忘れることがしょっちゅうだから、今までもこんなシーンは何度もあった。けれど私の記憶が正しければ、付き合い始めてから今まで、パスワード入力画面が表示されたことなんてなかった。


「フミ、ロックなんてかけてたっけ?」


リビングに戻ってきた郁也に聞くと、ピクリと反応を見せた。


「あー……飲み会の時、酔っぱらった後輩にスマホ見られかけて、ロックかけたんだよ」


嘘--だと思った。


根拠はないけれど、確信があった。


私はそれだけ郁也のことを見てきたつもり。ずっとずっと郁也を見てきたから、嘘をついていることくらい、私にはわかる。


浮気--してるのかな。


ずっと胸の奥底にしまっていた疑問が浮かぶ。こんなこと、思いたくないのに。疑いたくないのに、ずっと考えないようにしていたのに。でもそう考えると辻褄が合ってしまう。