君にさよならを告げたとき、愛してると思った。



そう言ってやりたいのに、私は目を細めて口角を上げて、「あるよ」と答えていた。


飲みに行くことがわかっている日はコンビニで済ませるけれど、連絡がない日は念のため今でも作っている。


仕事で疲れているのに、家に帰ってもご飯が用意されていないのは可哀想だから。家に帰れば温かいご飯が用意されている家庭が郁也の夢だから。


いつの間にそんな思いが消えたのだろう。無駄になるかもしれないとわかっていながらもご飯を用意するのは、郁也になにも言わないのは、口角を上げるのは。


どうして、だろう。


「ユズ、明日何時上がり?」


「遅番だから二十時くらいかな」


「そっか。俺もたぶんそれくらいだから、久しぶりに一緒に帰るか」


一緒に帰ってくれるんだ--。


そんな約束をしたのは何ヶ月ぶりだろう。


「うん、わかった」


そうか、郁也は今でもそんな時間まで残業しているのか。


私はもう郁也の仕事が忙しいのかわからない。前みたいに会社の話をしてくれることもないから、今どういう状況なのか全くわからない。


私たちは無言のまま淡々と食事を口に運び続けて、テレビに向かって笑いかけていた。