君にさよならを告げたとき、愛してると思った。



***


その日を境に、郁也は毎日のように遊び歩いた。


前は車通勤だからとお酒は飲まずに帰ってくることが多かった郁也も、今となっては会社に車を置いたまま飲みに行って、翌日は苦手な早起きをして、あまり好きではなかったはずの公共交通機関を使って出社する。


お酒は好きだったけれど、そこまでだったかな。ううん、違う。私がいるこの家に帰ってくるのが気まずいだけだ。


事前に連絡がくることもあれば、急に連絡がくることもある。急に連絡がくるだけで困るのに、連絡もなしに飲みに行くこともある。作ってしまったご飯は、サランラップとジップロックに包まれて、冷凍庫で眠っている。


そして、初めて門限を破った日から、門限を守らないことも増えていった。


自分で門限を決めたくせに、なんて勝手なのだろう。私は今でもちゃんと守っているのに。


『今から帰る』の電話は、いつからかこなくなっていた。


「飯ある?」


突然玄関のドアが開く音が聞こえたかと思えば、ネクタイを外しながらリビングにきた郁也は、こうして当然のように聞いてくる。


確かに今日は飲みに行くと言ってはいなかったけれど、連絡もなしに飲みに行く日もあるじゃないか。せっかく作ったご飯が無駄になるのは嫌だから、作ってないよ。