君にさよならを告げたとき、愛してると思った。



頑なに目を合わせない郁也を見て、気まずいのが嫌でわざとこんな時間に帰ってきたかなと思った。


この人バカなのかな。高熱が出て、病院にも行けない状態で、そんなにすぐ熱が下がると思ってるのかな。


なんとか起き上がってはみたものの、座っているだけで辛い。


シャツのボタンを真ん中くらいまで外した郁也は、いつもすぐに座るはずのソファーではなく、ソファーから少し離れて床に座った。


そうだよね。今は私が座っているから、座れるわけがないよね。目を合わせることすらできないんだもんね。


「……ねぇ、ご飯って絶対に行かなきゃいけないの?」


「え?」


「彼女が高熱出したから帰るって、それくらいも言えない状況なの?」


「……いや、だって。彼女が、なんて、みんな盛り上がってる時にそんなこと言えねぇだろ。空気壊れるし」


彼女だから? 私が妻だったら、家族が体調不良だって言ってくれるの?


「……ねぇ、結婚は? フミ、結婚しようって言ってくれたよね? もう一年経つのに、具体的な話はなにもしてないじゃん」


「……悪いけど、今は考えられない」


--じゃあいつ考えるの?


郁也は今、どんな顔をしているのだろうか。間接照明しかついていないリビングでは、俯いている郁也の表情がよく見えない。