君にさよならを告げたとき、愛してると思った。



「なんで最近ヘッドホンつけてるの? 私も歌いたい……」


ヘッドホンを外したタイミングで言うと、振り向いた郁也が小さく表情を歪ませたのを、私は見逃さなかった。


「なんでって……近所迷惑だろ。別に歌っていいよ」


なにを急に常識人みたいなことを言うんだろう。私が非常識みたいじゃないか。前に私が言った時、『下手なギターならな』とか言って、おかまいなしに弾いていたくせに。


近所迷惑だと思うなら、アンプに繋がなければいいじゃないか。エレキギターなら、そんなに大きな音は出ないじゃないか。


それに--歌ったって、私の声は届かないじゃない。郁也に聴いてほしいのに。


褒めてくれなくてもいいよ。どれだけ注文をつけても、睨んでも、怒ってもいいよ。だから、背中を向けないでよ。


最近は編集する時間がないと言って動画投稿もしていない。一緒に作っていたはずの曲も、今は郁也がひとりで進めているようで、歌詞の進み具合を聞かれることもなくなった。


完成するまで見せないと言ったのは私なのに、聞いてくれなくなったことを寂しく感じるなんて、私がワガママなのだろうか。


「ねぇフミ。行きたいところも、話したいことも、たくさんあるんだけど」


声は少し震えていた。