君にさよならを告げたとき、愛してると思った。



コートを脱ぎながら廊下を歩いていく郁也の口調や表情は困っているようだったけれど、声はどこか弾んでいて。


まるで私に言い訳をするために、困っている自分を演じているようにも見えた。


「可愛がってる後輩たちだし、今まで断ってた分、飯くらい付き合ってやりたいからさ」


ジャケットを脱いで私に預け、ネクタイを緩めてソファーに座る。テーブルに並んでいるビールや酎ハイの空き缶を見て、「お前も飲んでたの?」と笑った。


郁也のこういうところ、好きだった。後輩に慕われて、郁也もそれに応えて。


郁也らしいけれど、わかるけれど、遅くまで遊ぶ余裕があるなら、私とのこともちゃんと考えてほしいのに。


「シャワー入って、俺ももうちょい飲もうかな。まだ酒ある?」


「あるよ。おつまみもあるけど、食べる?」


「食う食う。なんか腹減った」


でも好きにしていいと言ってしまった手前、あまり強く言えない。郁也と一緒に晩酌したくてたくさん用意してたんだよ、なんて、もっと言えない。


今だけだよね。郁也が言う通り、今まで断っていたから、ずっと仕事が忙しいから、溜まっていた分を一気に発散しているだけだよね。


また一緒にいられる毎日がくるよね。