君にさよならを告げたとき、愛してると思った。



『今から帰るよ』


郁也から電話がきたのは、十二時を少し過ぎた頃だった。電話の向こうはざわざわと騒がしく、終電がもうすぐ到着するというアナウンスが流れている。


たまにタクシーで帰ってくるけれど、地下鉄で帰ってくるということは、今日はあまり酔っていないのか。


福住駅からマンションまでの最終バスはとっくに出ているから、どちらにしろ駅からタクシーに乗らなければいけないのだけれど。


「わかったよ。気を付けてね」


どれだけ頻繁に遊びに行っても、こうして必ず電話をくれるし門限も守ってくれている。文句を言えない大きな理由だ。


インターホンが鳴ったのは、電話を切ってから二十分後だった。


車で帰ってくるよりも十分早いはずなのに、この二十分間の方がとても長く感じる。車なら家に着くまでの三十分間はご飯の準備をしてバタバタと動いているし、郁也と話しているからあっという間に感じるのに。


「おかえり」


玄関のドアを開けると、郁也は私の首にショルダーバッグをかけて、頭をポンポンと撫でた。


「……最近多いね、飲み会」


「もともとしょっちゅう飲み会してたんだよ、あいつら。一回行ったら、すげぇ誘われるようになって」