ひとりでご飯を食べるのはつまらないし、せっかくの金曜日だし、お酒でも飲もうか。もっと早く連絡をくれていたら、私だって誰かを誘って飲みにでも行ったのに。


本人には言えない文句を心の中でブツブツと言いながら、冷蔵庫に入っていたビールを取り出して、お刺身とおつまみになりそうな作り置きをテーブルに並べた。


本当は、お風呂上りに映画でも観ながら、郁也と一緒に飲もうと思って買っておいたのにな。私が勝手に用意しただけだし、文句は言えないけれど。


「いただきます」


両手を合わせて呟くと、お皿に移すことなくパックのまま置いたお刺身に箸を伸ばす。


初めて食べた時、北海道はスーパーのお刺身でさえこんなにおいしいのか、とふたりで驚いたっけ。


でもなんだか最近は、名古屋にいた頃のお刺身の方がおいしかったような気がする。変なの。


ふたりで映画を観ていても、音楽が流れる度に郁也は映画の内容よりも音楽の方が気になって。音楽について語り出して、『次はなに歌う?』って話になって。


私がいくら『映画に集中させて』と言っても郁也は聞いてくれなくて、最終的に私もまんまと映画なんてそっちのけになって、気付けばエンドロールが流れているのだけれど。


いつもそうだったから、一緒に観た映画の内容はほとんど覚えていない。でも、それでもよかった。それでも楽しかった。


金曜日の、仕事終わりのビールなのに、なんだかあまりおいしく感じない。