運ばれてきた肉をトングで網に乗せていく。左手にはもちろん生ビール。
郁也がこんなことを言ってきたのは初めてだった。今まで会社の人とご飯を食べに行くことはあったけれど、郁也は車通勤だからお酒を飲まずに帰ってきていた。
わざわざ聞いてくるということは、郁也も飲みたいっていうことかな。
「飲み会? 珍しいね」
「いや、実は今までも何回か誘われたことあったけど、断ってただけ」
「え? なんで?」
「いや、だって、ユズこっちにまだ知り合いもあんまりいないし、俺ただでさえ帰り遅いのに、遊びに行ってもっと遅くなったら寂しくない?」
なにそれ。私が寂しがると思って断ってくれていたなんて、全然知らなかった。
こういうところ、好きだなあと思う。いつも当然のように私のことを考えてくれている。
「今回は送別会でさ。世話になった先輩だから、行きたいんだけど」
「いいよ」
「マジ?」
「当たり前じゃん。信じてるから好きにしていいよ。私も会社で何人か仲いい子もできてきたし、今度飲みに行こうって話してるから。そんなに気遣わなくていいよ」
私が働いているコールセンターは、フロアにオペレーターが二百人ほどいて、そのほとんどが女の子だった。同期入社の子も何人かいるし、年齢が近いからすぐに打ち解けることができた。


