君にさよならを告げたとき、愛してると思った。



***


郁也は残業ばかりだから、早番の時は一緒に帰れることはほとんどないけれど、遅番の時は一緒に帰れる日も少なくはなかった。


秋を通り越して冬がきそうなほどに寒くなってきた十月の半ば。北海道の春も夏も驚くほど短かったけれど、秋も一瞬で過ぎ去りそうだ。一年の半分は冬なんじゃないかと思う。


「ユズ」


郁也から連絡がくるよりも少し仕事が早く終わったので、会社の前まで迎えにきていた。


私に気付いた郁也が右手を上げると、周りにいた人たちも一斉に私を見た。そして、郁也の後ろからぞろぞろと人が出てくる中のひとりの女の子が私をじっと見ていることにも気付いた。


今日だけじゃない。こうして郁也を迎えにくる度に、彼女はいつも私のことをじっと見ていた。


背が小さくて、黒いサラサラの髪と華奢な身体はまさに清楚で。けれど私に向けられた笑顔は人懐っこくて。


いい子そうだな。あの子が『中谷さん』かな--。


「行こっか」


まだ見られているというのに、郁也は私の右手を握った。後ろから「ヒューヒュー」とわざとらしい冷やかしを受けても、郁也は「バーカ」と笑って返すだけで。


やっぱり郁也は浮気なんてするような人じゃないし、気にしないでおこう。


名残惜しそうに立ち尽くしている中谷さんの視線を感じながら、手を繋いで焼肉屋へ向かった。


「飲み会あるんだけど、行っていい?」