君にさよならを告げたとき、愛してると思った。



もう、と言いながら鞄を漁る。もう、と言いながらも、鞄の中身を隠そうとしないことは正直嬉しかった。


付き合い始めた時からそう、郁也は私との境界線を作ろうとしない。自分のテリトリーに、当然のように私を入れてくれる。


郁也はなんでもかんでも鞄に入れるから、ハンカチやらなんやら、洗濯物を取り出さなきゃいけない。


チャックを開けると、ピンク色の包装紙に包まれている箱が入っていた。大きさからして、コップかなにかだろうか。


「フミ、これどうしたの?」


それを取り出して、寝室に着替えを取りに行こうとする郁也に見せた。


「ああ、後輩が旅行してきたみたいで、土産くれた」


ピンクの包装紙を選ぶなんて、たぶん、女の子、だよね。


「そうなんだ。もしかして、中谷さん?」


「よくわかったな」


郁也は会社の話をよく聞かせてくれていて、その中でもよく出てくるのが“中谷さん”。


いや、話に出てくるのはその女の子だけではないのに、なんとなく、中谷さんの名前はよく覚えていた。話を聞く度に、その子、フミのこと好きなんじゃないかな、と思っていたから。


根拠なんてなにもないけれど、ただ、なんとなく。


「そうなんだ。包装紙、可愛いね」


「中身なに?」


「知らないよ」


「開けてみてよ」


郁也がもらったお土産なのに、しかも女の子からなのに、私に開けさせるかな、普通。


疑問には思うけれど、それでも不安はなかった。
大学の頃みたいに嫉妬はしない。今はもう、心から郁也のことを信じてる。