君にさよならを告げたとき、愛してると思った。



仕事が決まらないのは、結婚していないせいでも、郁也のせいでもない。


知らない土地で頼れる人もいなくて、新規事業のリーダーなんて責任も大きいだろうし、今は私との将来を考える余裕なんかなくて当たり前だ。


やっぱり、今日の話はしない方がいいよね。仕事が落ち着けば、結婚のこともちゃんと考えてくれるはず。ただ今はそのタイミングじゃない、それだけだ。


結婚なんていつでもいいじゃないか。今一緒にいられることがなによりの幸せだって、いつも思っていたじゃないか。


私にできることはなんだろう。なにも知らない私が陳腐な言葉を並べて励ますのは、なんだか違う気がして。


郁也がこうして話してくれた時に静かに聞いて、好きだと言ってくれた笑顔を絶やさないことが、郁也がホッとできる空間を作ってあげるのが私の役目だと思った。


「うまかった! ごちそうさま。風呂入ってこようかな」


パン、と手を合わせてから立ち上がる。食器くらい下げてよ、と文句を言いたいところだけど、今日は許してやるか。


食器を下げないことへの不満よりも、不安を私に話してくれた嬉しさと、完食してくれたことへの安心の方が大きいから。


「その前に洗濯物出してよ」


「ユズがやってよ」