君にさよならを告げたとき、愛してると思った。



郁也から普段聞く話は、後輩がバカなことをしたとか、先輩がこんなことを言ってめちゃくちゃ笑ったとか、明るい話題ばかりで、仕事の大変さや愚痴を言うことはほとんどなかった。


聞くまでもなく大変なのはわかっていたし、家に仕事を持ち込みたくないタイプなのかな、と思っていたから、私から深く聞くこともなかった。


今こうして話してくれているということは、私の想像以上に多大なストレスを抱えているのかもしれない。


それなのに一緒にいる時はそんな様子を一切見せずに、いつも笑ってくれている。


「後輩のこと指導したり、先輩でも言わなきゃいけない時もあってさ。一年目の時、先輩とか上司にムカついたことも何回もあったから、絶対ああいう奴になりたくないって思ってたのに……結局、俺もなりたくなかった奴になってるなあって」


そんなことないよ、なんて言えなかった。


なにも知らない私が無責任にそんな台詞を吐いたところで、きっとなんの励ましにも慰めにもならない。


「先輩の気持ちも後輩の気持ちもわかるから、どうしたらいいのかわかんなくなっちゃって」


そんなこと、考えてたんだ。


郁也に甘えちゃいけない、しっかりしなければと思いながらも、どこかで甘えていた自分を恥じた。