君にさよならを告げたとき、愛してると思った。



まだ四ヶ月しか住んでいないのに、私にとってこの部屋は一番落ち着く場所になっていた。郁也の気配や香りが、私のことを包み込んでくれているようで。


でもそれだけじゃこの靄を吹き飛ばしてはくれないから、早く郁也に会いたい。郁也の笑顔を見て気持ちが落ち着いたら、また一から頑張ればいい。


今か今かと待ちわびていてもなかなか電話は鳴らなくて、二十一時を過ぎた頃にまだ残業かと連絡しても返ってこない。


いつもこれくらいの時間までには電話がくるし、遅くなる時は必ず事前に連絡をくれている。なんの連絡もなしに遅くなるなんて、こんなのは初めてだった。


なにかあったのかな。もしかして、事故とか?


部屋をキョロキョロ見渡してみたりウロウロと歩き回ってみたり、そんな無意味なことを繰り返してしまう。


ガチャ、と鍵が開く音がしたのは連絡をしてからたったの十分後だった。


「おかえ……」


急いで玄関へ向かうと、靴を脱いでいる郁也の左手にはスマホが持たれていた。


私に気付いた郁也は「ただいま」と音を発さずに口だけ動かして右手を上げた。おかえり、という意味を込めて目を合わせると、郁也はショルダーバッグを私の首にかけて、小さく笑って頭にポンと右手を置いた。


「……はい。……そうですよね」