君にさよならを告げたとき、愛してると思った。



さっきまで電話で三十分も話していたのに、郁也はご飯を食べながらまた話し始める。ふたりともお喋りだから、会話が途切れることも、笑い声が鳴り止むこともなかった。


『ベタな家庭に憧れる』と言っていた郁也の夢を叶えてあげたい。それに、いつの間にか私の夢にもなっていた。


「なあ、明日出かけない?」


ごちそうさま、と両手を合わせながら郁也が言った。


週に一日しかない休日は、本音を言えば出かけたいけれど、今は郁也をゆっくり休ませてあげることを最優先に考えてほとんど家にいた。


「いいけど、どうせ楽器屋さんでしょ」


「よくわかってるじゃん」


たまにこうして郁也が出かけたがったかと思えば、向かう先はいつも楽器屋さん。


おかげで平岡のイオンと狸小路は常連になったけれど、何時間もギター用品を探し回る元気があるならデートをしたい。


「わかったよ、もう」


まあ、郁也は楽しそうだし、一緒にいられるならいいけれど。


郁也は今まで通り一ヶ月に一回は動画投稿をしたいと言うから、月の最後の日曜日は動画撮影と投稿をする日になった。


最近は『海岸通り』『世田谷ラブストーリー』など、シングル曲にこだわらず、なにも考えずに歌いたいと思った曲を選んでいた。