郁也の会社から家までは車で三十分ほどかかる。マンションの駐車場に着くまでの間、電話でその日あった出来事をお互いに話していくのが日課になっていた。
といっても私は家にいるだけだからあまり話題がなくて、郁也の話を聞いていることがほとんどだけれど。
三十分後に電話を切ると、数分後にインターホンが鳴る。モニターで郁也の姿を確認してからオートロックを解除して、家の鍵を開けて、郁也が玄関のドアを開けるのを待つ。
鍵を持ってるんだから自分で開ければいいのに、郁也はいつもこうだった。玄関まで出迎えてもらうのが男の夢らしい。
「おかえり」
「ただいま」
ビジネス用のショルダーバッグを肩からおろすと、それを私の首にかけて、リビングへと繋がる廊下を歩きながらジャケットを脱いでネクタイを外す。それを受け取ると、私の頭をポンポンと撫でる。
この一連の流れは、名古屋で同棲していた時からのルーティーンだ。
リビングのドアを開けると、テーブルに並んでいる料理を見て「うまそう」とにっこり微笑んだ。
私は特別料理が得意なわけではないし、レパートリーが豊富なわけではないけれど、郁也はいつも「うまい」と言って完食してくれる。
それが嬉しくて、レシピアプリを見ながら一汁三菜を心掛けていた。


