君にさよならを告げたとき、愛してると思った。



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郁也は越してきてからたったの二日後に仕事が始まった。


せっかく憧れの地に越してきたというのに、観光どころか、一緒に家具や食器を選びに行く時間すらどこにもなくて。


予定通り新規事業立ち上げのメンバーとして配属された郁也は、初日からさっそく残業をして、休日出勤も増えて、最初の二ヶ月間はほとんど休みなく働いていた。


名古屋にいた頃も忙しそうだったけれど、それを上回るほど多忙だった。


GWはカレンダー通りの休みの予定だったけれど、休日出勤が入ってしまったから、帰省はできなかった。


テーブルに置いていたスマホが鳴ったのは二十一時を過ぎた頃。画面に表示されている『フミ』の名前を見て、すぐに通話に切り替える。


『もしもーし。今から帰るよ』


定時は十七時だから、今日も四時間の残業だ。このニヶ月間、いや就職してからの一年間、定時で終わったことはあまりない。


仕事が終わると毎日欠かさず電話をくれるけれど、さすがに疲労が溜まっているのか、郁也の声は日に日に疲れを感じさせていた。


「お疲れさま。気を付けてね」


左手に持ったスマホを耳に当てながら立ち上がり、パタパタとキッチンへ向かう。


すでに作っていたお味噌汁と副菜を温めて、洗っておいた生野菜をお皿に盛りつけて、下処理だけしておいた鶏肉をフライパンに入れた。


仕事が終わった報告だけで電話が切れることはなく、郁也は『今日さ』と話を続けた。