君にさよならを告げたとき、愛してると思った。



適当に入った普通の居酒屋なのに、お刺身が新鮮でおいしい。


私はグルメじゃないから味の違いなんてわからないと思っていたけれど、それでも北の大地で味わう魚介類は別格だということはわかった。


こんなおいしい料理を、これからは当たり前に食べられるなんて。


引っ越し作業と長旅で削られたエネルギーを取り戻すべく、そしてお酒が飲めない代わりに、夢中で海鮮料理を胃に詰め込んだ。


あまりのおいしさに気分が上がってしまった私たちは、真っ直ぐ車に戻ることなく、ぶるぶると震えながら少し歩いて大通公園へ向かった。結局、自殺行為をすることになるなんて。


札幌テレビ塔から果てしなく続いている並木道は、久屋大通公園によく似ていた。


おかげで「テレビで見たことある!」と騒ぐこともなく、自販機でホットコーヒーをふたつ買ってベンチに腰かけた。


記憶に新しい久屋大通公園と違うのは、木々の枝には枯れ葉がちらほらとしがみついているだけで、やっぱり桜の気配すら感じない。


「北海道っていつ桜咲くの?」


「さあなー。GWとか?」


そうか。同じ日本なのに、一ヶ月も違うのか。変な感じ。


一年に二度も桜を見られるなんて得した気分だと言った私に、郁也は「ほんとポジティブだな」と笑った。


「桜咲いたら、またこようよ」


「うん、そうだね」


これからはこの土地で郁也との日々を過ごしていくのに、ネガティブになるわけがない。


いつまた転勤になるかはわからないけれど、どこへ転勤になっても、私はきっと毎回同じことを言うと思う。