郁也は車を持っていて普段から運転しているからいいけれど、当たり前に地下鉄がある生活をしてきたおかげで免許を取得してから一度も運転したことのない、正真正銘のペーパードライバーである私にとっては少し不便そうだ。


スマホのナビで調べたところ、中心部へ行くにはマンションから十分ほど歩いてバスに乗り、バスで十分揺られて地下鉄に乗り、そこからさらに十二分間揺られなければいけない。


歩くと二時間以上かかる。いくら歩くのが苦ではないといえ、さすがに二時間は苦だ。


近隣にスーパーや薬局があるのが唯一の救いではあるものの、せっかく憧れの地にきたのだから、中心部に住んでみたかったのが本音。


と、心の中ではタラタラと文句を言ってはいたけれど、『綺麗なマンションだね』『静かで住みやすそうだね』と笑った。


午後一で家電や寝具など必要最低限の家具が届き、設置や設定をなんとか終えたのは夕方だった。


「さて。飯食いに行って、ついでに軽く観光でもするか」


テレビとレコーダーの配線を繋ぎ終えた郁也が、立ち上がって大きく伸びをする。


「え? 荷物の整理とか、片付けとかしないの?」


「あさってから仕事始まっちゃうし、時間もったいないだろ。せっかくだからすすきのでも行こう」