君にさよならを告げたとき、愛してると思った。



「ユズ、どこ行ってたの? 一緒に学食行こうと思ってたのに」


研究室に戻ると、私を見つけた彩乃がひらひらと手を振った。


ふわふわと揺れる内巻きのボブヘアを見て、彼に会ってからずっと落ち着かなかった心臓がやっと、少しずつ静まっていく。


そうだ。お昼ご飯食べられなかった。今日は夕方まで講義がびっしり入っていて、もう食べる時間がないのに。


でも、どうしてだろう。お腹が空いていたはずなのに、彼と話している間そんなことはすっかり忘れていたし、今もまるで体が空腹を忘れ去ったみたいになにも感じない。


ただ、胸のあたりが膨らんでいるような感覚だけが残っていた。


「昨日の男の子に呼ばれてた」


「フミくん?」


「そうそう。昨日断ったのに、今日も同じこと言われて」


言いながら彩乃の隣に座ると、私の髪が乱れていたのか、指先を私の髪にゆっくりと通す。絡まっていた毛先が解けて、カラーとパーマで傷んだピンクブラウンの毛先が胸元にパサッと落ちた。


「そうなんだ。いいじゃん、ユズ歌うまいし」


「人前で歌うほどうまくないよ」


あれ。この台詞を言ったの、この二日間で何回目だろう。


「高校の時とか、学校祭で歌ってたじゃん」


「あれは……若かったから」


「いやいや、まだ若いでしょ」