工藤は他の部員はもうとっくに帰って⋯もしくは最初から居ないのに、一人この時間まで残って練習している。
真っ白なグラウンドで一人、素振りっていうのか、バッドをブンブン振り回している。
その姿を見て私は思わず、窓の前で立ち止まった。
「工藤、か⋯」
クラスメイトの工藤とはたまに話すけれど、特に仲が良いわけではない。
地味でも派手でもない工藤。
印象に残るのは今年の春、友達に誘われて観に行った野球部の試合。
強くも弱くもない、ただの公立高校。
その中で工藤は二年生にしてエースで4番らしく、まぁ、活躍していた、と思う。
工藤が出ると周りがザワついていたから。
他の部員が言っていたから。
「工藤は上手いよ」って。そんな、大雑把なことを。
だけど工藤が凄いのは地方の無名高にしてはらしく。
工藤一人凄かったところで野球はチームプレーらしく。
残念ながらうちの野球部は試合に負けてしまい、他の部員がさっさと帰り支度をしている間、工藤は一人悔しそうにグラウンドに立っていた事をふと思い出した。
まぁ、エースとか4番とか、ルールさえよく知らない私からしたらだからといって、特に何かを感じたわけじゃないんだけど。
その悔しそうな工藤の姿がやけに印象に残っていた。