巻き込まれ召喚された身でうっかり王子様に蹴りを入れたら、溺愛花嫁として迎えられることになりました【WEB版】

怨念。
 この呪術で……人が、死んでいる。

「…………うっ……」
『リセ! すぐにそんな呪術弾き飛ばすから大丈夫ナリ!』
「違います。ティムファーファ様……違うんです……確かに痛いけれど、違うんです……悲しいんです……この呪術……とても、痛い、苦しいって、流れ込んでくるんです」
『み!?』
「…………」

 不思議とこの魔力を作った人たちの気持ちがわかる。
 誰にも必要とされたことのない私は、厄介者で、本当はいない方がよかった存在。
 親戚にも迷惑がられましたし、義務教育中は教室内でも“好きにいじめていい”と思われてました。
 誰かに期待すると裏切られるのがわかっていたので、それもしなくなりました。
 似てるんです、とても。
 昔感じた痛みに似ています。
 ああ、エルフたちも悲しかったんですね……。

「でも、でも違うんです。違うんですよ。精霊はあなたたちの知識と、その長い寿命で世界を支えてほしかったんですよ! 他の種族があなたたちに、とっつきにくさを、扱いづらさを感じて、あなたたちの話を……聞かなくなっていった、だから、話すのを……期待するのをやめてしまったのは、わかりました! でも、それならなおさら……ここで間違えては、いけないです!」
「っ!」
「精霊たちがあなたたち“エルフ族”を信じて託したものを、忘れないでください……! 私が、話を聞くので……間違えないでください! あなたたちの誇りは……魔法だけではないはずです! 精霊たちからの信頼を……どうか思い出してください——!」

 身に纏わりつく魔力が緩む。
 やっぱり……この魔力のために犠牲になった人たちは、気づいていたのですね。

『ほらね、だから言ったじゃない。聞かん坊はあなたたちも同じだって』
「あ……」
『もうわかったでしょう。だから、どうか……この子を助けてあげてね。お願いよ、ルキアン』

 初老の女性がうっすら見えます。
 彼女は私に纏わりつく魔力を優しく剥がして、さらさらと空へ返していく。
 その魔力が、真っ白な精霊になりました。
 あれは……。

『え! お、お前は!』
『どうも! お久しぶりです、ティムファーファ様! アスレー一族の加護精霊、ルキアン復活いたしました!』
「加護精霊……」

 と、いうのはあれです。
 人間の血族と契約し、マナを魔力に変換してその血族に行き渡らせる『加護』を与える上位精霊のことです。
 アスレー一族の加護精霊。
 あ、もしかして、あのおばあさんの一族の?

「……もしかして、あのおばあさんは、私たちをこの世界に呼んだ……」
『そうです! 彼女はリジーア・アスレー! あなたと他四名の少女をこの世界に呼び寄せた召喚主の女性です! アスレー一族最後の一人! 彼女が死んだことで、わがはいルキアンは契約を解除された状態で呪術に巻き込まれておりました!』
『なんと!』
「なんと……!」
『ですが、あなたの呼びがけに魔力の提供者たち……エルフたちの怨念も剥がれ、リジーアが彼らを説得してくれました! 感謝いたします! おかげでわがはいも解放されて、復活いたしました! ただいまより、あなたのお力になりますよ!』

 リジーア・アスレーさん……。
 それが、私たちをこの世界に呼び出した召喚主の名前。
 私たちを呼び出したせいで、亡くなってしまったと聞いていましたが……。

「…………」

 優しい方とは聞いていましたが、リジーアさんは自分を殺したエルフたちを自由にしてあげたのですね。
 本当に、とても、素晴らしく……優しい方だったんですね。

「なぜだ……! こんなこと……ある、わけが!」
「お前が犠牲にした者たちの声は、お前にも聞こえたのだろう? フォレスター。俺に聞こえたのだ、お前に聞こえていないわけがない」
「!」
「あ……で、殿下——」

 私の肩を抱き寄せる大きな腕。
 殿下の胸に頭が押し当てられ、顔が熱くなります。
 フォレスター様が殿下の姿に顔を青くなさる。
 殿下の方に黒檀様がいらっしゃるからですね。

「だが、そうか……確かに我らのはお前たちエルフの声に、耳を傾けなくなっていたかもしれない。お前たちは頑固で人の話を聞かず、我らを見下すばかりで話にならない。……我らもそう、思っていたのかもしれない。思い返してみても、ゆっくり世界のことを、話し合ったことはないな……」
「……っ!」
「では、今日話そう、フォレスター。俺は今日、このあと王になる。お前も次期エルフの国王だろう? ……変えていこう。共に変わろう! 誇り高き、精霊にその叡智を認められしエルフの王よ!」
「……っ!」

 フォレスター様は、しばらく動かれませんでした。
 身を震わせて、歯を食いしばって、色々な感情が、波のように引いては押し寄せを繰り返しているのでしょう。

「……許すというのか」
「あえて聞くか。……許す許さないで言うのならば個人的には許さん。だが、リセと出会わせてくれたことには感謝している。……そして、国を背負うということが綺麗事だけで罷り通るものでもないということはお互いにわかっている。だから飲み込む。お前も飲み込め。そして向き合って前を見ろ。……その上で代わろうと言っている」