巻き込まれ召喚された身でうっかり王子様に蹴りを入れたら、溺愛花嫁として迎えられることになりました【WEB版】

 
「黙れ。このような決闘は無効である! リセは決闘のルールを知らなかった! それを悪用し、騙し打ちのような真似をしたその方は恥ずかしくないのか!」
『ぅっ!』
「それに、リセを守るのは夫となる俺の当然の義務! この国に無理矢理招いた以上、リセへの無礼は俺への侮辱と思え!」
「藍子殿下……」

 たじろぐ実民様。
 私のことを、こんなふうに守ってくれる人が——これまでの私の人生でいただろうか?
 こんな人は初めてで、とても困惑する。
 味方だと思っても味方じゃない人がたくさんいた。
 味方だったけど、別人のようになった『彼女まち』のような。
 私に関わった人はみんなそうだった。
 藍子殿下は、こんな危険なところへ、私なんかのために飛び込んできてくれて……本当に守ってくれて……。
 この人はなんなのでしょうか。
 私はこの人に……金的という男性にとってもっとも痛みを伴う加害を行なってしまったのに——!

 そうです。
 私はこの人を、傷つけているのに。

「どうして」
「?」
『どうして! 藍子殿下!! どうして!』
「きゃっ!」
「リセ!」

 地団駄を踏み始める実民様。
 十数メートルはある巨体が地団駄を踏めば、それはもう大きな地震となります。
 揺れる地面に耐えきれず倒れそうになると、藍子殿下が私の体を抱き止めて支えてくださる。
 上質な着物の手触り。
 頰に当たるその感触が気持ちいいです。
 お高い着物ってこんなに手触りが気持ちいいんですね……!

「あ、ありがとうございます」
「いや、まだ危険だ。掴まっていろ」
「はい、すみませんっ」

 などと思っている場合ではありません。
 手触りは確かに心地よいのですが、同じく体温が伝わってくるのです。
 他の誰でもない、藍子殿下の。
 それを自覚したら胸がわわわわをってなりました。
 なんですか、これ。
 私はどうしてしまったのでしょう?
 もしかして、命の危険が迫っているから?
 びゃあびゃあと泣き始めた実民様の地団駄は、体感五分ほど続きました。

『許せない! あたちの目の前でイチャイチャして! 許せないわ! どうしてなの、藍子殿下! あたちの方がその女より絶対強いのに!』
図山実民(ずさんみたみ)、その方との婚姻を断ったのは俺がその方との決闘に勝利したからと——その方の年齢がまだ十に満たないからだ。幼すぎてその気にならん」

 あ、やっぱり見た目通りの年齢だったのですか……。
 それは、確かに!

「そしてリセは弱くない。確かに戦いという意味では強くないかもしれない。だが、自分の身を顧みない強さがある。……それは俺にはない強さであり、危うさだ。だから俺はリセを守らなければならないし、守りたいと思った」
「……え? 殿下……」

 それは、どういう。

「それで? 最年少の図山実民に丸投げにして、お前たちはなにをしている!? 座頭喜葉(ざとうきよ)! 御草朔子(みぐささくこ)!」

 顔を上げた藍子殿下が見たのは、左側の塀の中。
 よく見ると、そこには穴がたくさん開いています。
 穴、じゃない……あれは——小窓?
 なんと! 小窓があったんですね!
 小窓に見えた人影が消えた、と思ったら、塀がどかーんと壊れました。
 ……今日はよくインパクト的なものを目にする日ですね……?

「まったく使えない小娘ですわ。任せろと言っておきながらこの様とは」
「本当ねん。でも、まあ、せっかくだからご挨拶しておきましょうかぁん」

 竜翼を発現させて宙に浮かぶ……彼女たちが塀を破壊した人のようです。
 流れるような青い髪の女性と、実った稲穂のような金色の髪の女性。
 二人が人の姿に戻った実民様の隣に降りてくると、まるで日曜の朝にやっている少女向けアニメのようです!

「ワタクシが座頭喜葉(ざとうきよ)ですわ! 役立たずの図山実民の代わりに、ワタクシがアナタを倒して差し上げます! 決闘なさい! 名乗りをあげなさい!」
「え!」

 ち、血の気が多い〜〜〜!
 喜葉様も勝負でなんとかしたい感じの方ですか〜!

「まあ、なんで下品。首に巻いているのは始祖様ではありませんのん? 始祖様へ対する態度とは思えませんわん! せめて胸に抱くくらいなさいません! ひどい、これだから人間は」

 ま、まさかの黒檀様の扱いへの注意……!
 ですが、私の肩に黒檀様が巻きついているのは黒檀様が始められたことでして!

「そんなことよりお前たち! 母上や円歌に散々ここから出ていくよう、言われていたはずだ! 今日はその話をしにきたのであり、お前たちとリセを戦わせるつもりはない! こちらの話を聞き入れないのであれば、今度こそ家含めた処分を下さなければならなくなるぞ!」

 はっ!
 そ、そういえばここにきた理由はそうでしたね!
 お三方のインパクトが強すぎて一瞬忘れておりました!

「っ! ではワタクシたちを殿下の側妃にお迎えくださればよいのですわ! そうすればワタクシたちは『婚約者候補』の『仙森ノ宮』から出て『側室』の屋敷である『春森ノ宮(はるもりのみや)』へ移りますもの!」
「ええ! ええ! それがよいですわん、殿下! そういたしましょう! そうしたら朔子たちは、毎日殿下に尽くしますわん!」