「始祖様に気に入られてるリセ様ならすぐ追い出せるわ! よろしくね!」
「そ、そんな!」
「俺も手伝う! あの場に入れるのは俺と母上とリセだけだからな! あ、あと始祖様も!」
「ううううう……」
というわけで、そのまま私と藍子殿下は後宮へと移動します。
件の『仙森ノ宮』は後宮の中でもかなり中心部の広い場所にありました。
大きな森の中に、大きな屋敷が木々を呑み込むように佇む不思議な場所です。
静かでとても澄んだ空気。
「さて、なにがあってもリセは俺が守るので心配ないぞ」
「え、あ、は、はい」
まだお屋敷に入ってませんが、前置きが怖いです藍子殿下……!
でも、そんなことを言われたのは生まれて初めてでなんだか胸がほかほかしますね。
……けれどやはりそのセリフが出てくる意味を考えると胃が痛みます。
「「…………」」
からの沈黙!
沈黙ですよ沈黙!
まずい予感しかしませんよね!
「……その、おそらくだが」
「は、はい?」
「俺の話は聞き入れられない。彼女たちは自分の都合のいい言葉以外は耳に入らないらしいのだ」
「えっ」
げんなりとした表情の藍子殿下。
屋敷に入る前から既に疲労の色が見えます。
やはり人の話を聞かない系の方々のようです。
やはりというか、改めて、というか。
そんな方々の説得だなんて、私にできるのでしょうか……?
『ふむ。竜人族は強さこそ正義、というところがあるからな……。とりあえずリセだけで入ってみるとしよう。藍善が一緒にいるとややこしさに拍車がかかるかもしれん』
「わ、私だけですか!?」
『心配はいらん。余も一緒だ』
「も、申し訳ない、始祖様。リセ、なにかあったらすぐ呼んでくれ。すぐ駆けつける」
「……わ、わかりました」
男の方が側にいると都合の良いことしか耳に入らなくなる系の女性は、種族関係なく存在するのですね。
懐かしいです。
私が中学生の頃、隣にとても顔のいい男の子が座っていて、私の席は彼を好きだった女の子たちに占拠され……気がつくと一番強い女の子と席が交換になっていました。
誰一人それに文句など言えるはずもなく、また、当然私に一言も相談はありませんでしたね。
まあ、席ごとき、どうでもよいのですが。
「確か——図山実民様。座頭喜葉様。御草朔子様。のお三方ですよね。どのような方なのでしょうか」
『まあ、お妃の言葉にすら耳を傾けぬ時点でかなり気が強い娘なのだろう。心してかかった方がよい』
「は、はい」
屋敷に入ると、誰も出迎えません。
『姫』と呼ばれる階級の方なのだから、使用人を連れてきていると思ったのですが……。
まずはその使用人の方に色々おうかがいして、それからどの方から会って説得するかを決めるつもりでしたが困りましたね?
「あ」
しかし、私は失念しておりました。
そうです、この国の方々は『式神』という力があるのです。
廊下を進むとばったり、桃色の小さな子竜の姿をした式神と目が合いました。
バッチリ! これは見つかってしまいましたね!
なるほど、式神がいるから使用人の方はいないのですね!
「…………」
あれ、ではまさかこの式神の持ち主の方がわざわざ現れる……?
いえ、まさかそんな?
居座り続ける、という時点でそんな殊勝な方ではありますまいて?
『なによあんた! どこのどいつ!』
「ひえ!?」
式神が喋りました!?
女性の声です!
「あ、あ、あの……私はリセと申し……」
『リセ!? リセってまさか藍子殿下の婚約者になったとか言ってる泥棒猫!?』
ど、泥棒猫……。
初めて言われましたしその表現異世界でも使うんですね……?
「あ、あの、その……」
『いい度胸してるじゃない! ちょうどいいわ! あんたに会えたらこう言ってやるつもりだったのよ!』
「あ、あの……お話したいと思いまして、あの……」
ま、まずいです、このままでは話を聞いていただけそうにないです。
基本的に私は人の話は遮らないのがモットーなのですが、このままだと身の危険を感じます。
なんとかお話できないものかと声をかけ続けますが——。
『決闘しなさい! 場所はここから東に行けば決闘場がある! そこよ! 今すぐ来なさい! ボコボコにしてやるわ!』
「え、あ、あの……」
『いい!? この式神が今のすべてを記録してるわ! 逃げられると思ったら大間違いよ! 今すぐ来なさい! 今すぐ!』
「っ」
キーーーンッ。
と、思わず耳を押さえたくなる大声です。
す、すごい……こんなに話を聞いてもらえないのは中学を卒業してすぐに始めたコンビニのアルバイトでお昼のお弁当を買いに来てコーヒーのサイズを間違えたおば様以来かもしれません……。
「きゃ!」
その上、式神が私の後ろに回り込み、コツコツと後頭部を突き回します。
あ、これは逃げられないやつ……。
「ど、どうしましょう……藍子殿下がまだ表に……」
『余の式神を使えばよい』
「あ、なるほど……ではお願いします」
黒檀様の鱗を一枚お借りして、ふう、と息を吹きかけると漆黒の式神が現れました。
その子に言伝を頼み、私はせっつかれるがまま『決闘場』とやらまで進みます。
……『決闘場』……もう名前からして……!



