巻き込まれ召喚された身でうっかり王子様に蹴りを入れたら、溺愛花嫁として迎えられることになりました【WEB版】


 私は、殿下の気持ちを“本能的で理解できないもの”だと思っていました。
 実際やっぱりちょっとわかりません。
 ……ちょっとっていうか、さっぱりわかりませんけども。
 でも、殿下が私を思ってくれる……この想いは——。

「殿下、私もう少しだけ眠ってもいいでしょうか。そうしたら……次に起きた時、元気に戻ってると思うのです」
「! も、もちろんだ! ……そ、その、て、て、て、て、て、手を繋くか……? そ、その方が安心したり……」
「それは大丈夫ですね」

 殿下は真剣に私のことを心配してくださっている。
 親戚に預けられて生きてきたので、人の顔色を見て、できるだけ迷惑に思われないように……それだけを意識して。
 でも、殿下の様子はどれも当てはまりません。
 それは二年前に、私と一緒に召喚されてきた『彼女たち』が、精霊と契約できず役立たずの能無しに認定された私が捨てられると聞いた時の顔でした。
 本気で私の身を案じてくれるもの。
 どこにも居場所がなく生きてきた私には、眩しいくらい優しい感情です。
 私はその気持ちに、いったいどれほど上手に、そして真剣に向き合えるのでしょうか。
 向き合い方がわかりません。
 私の周りにそれを教えてくれる人はいませんでしたから。
 実際、『彼女たち』は親戚の人たちや小中学校の同級生たちのように変わってしまいました。
 きっと私が失敗したからでしょう。
 私がダメダメなのです。
 だから……いつか藍子殿下も——。

「そ、そうか……」
「?」

 なんでしょんばりとあまた落ち込まれているのでしょう?

「では、なにかしてほしいことや食べたいものは——」
「え? ですからまた寝かせていただいて……」
「いけません!」
「「わーーっ!」」

 スパーンと襖が開き、入ってきたのは白い髪をグルングルンに巻いて、右にサイドテールにした女性。
 え、ええとこの方は?

「え、円歌! 突然入ってくるな……! 驚いたではないかっ!」
「お黙りなさいませ! ……そしてリセ様!」
「は、はいっ」

 この方が円歌様。
 そういえば気を失う直前、この方に会ったような気がします。
 竜人族の女性はどの方もパワフルですね。
 って、感心してる場合ではなかったです!
 私、今名指しされましたね!

「お休みになられるのなら、ちゃんとお食事を摂ってからでなければなりませんわ! あなた、ほぼ丸二日食べておりませんのよ! おわかり!?」
「……あ……そ、そういえば……」

 この国に来た時、王妃様とお会いした時にお菓子をいただいて……それきり食べておりませんね?
 それを自覚した途端、キュルルル……とお腹が鳴りました。
 わ、わぁ〜……!
 よりにもよって藍子殿下がいらっしゃる目の前で……!

「か、可愛い腹の音だな。さすがはリセだ」
「す、すみません……」
「なにを謝る。とても愛らしい腹の音だったぞ」

 殿下、それは褒めてません。
 は、恥ずかしいです〜!
 思わず顔を覆ってしまうと、廊下からパタパタと複数の足音が近づいてきた。

「リセ様起きた〜? よかったわ〜」
「リセ様、大丈夫ですか? 殿下に不届なことはされてませんか?」
「飯持ってきたっすよ!」
「お加減はいかがですか!」
「起きられますか!」
「!!」

 なんと、入ってきたのはお妃様と甲霞様と采様と育多様と菜々様。
 この国で知り合った方が、全員勢揃い……!?
 采様がお盆に乗せたお粥を、私のところまで運んできてくださる。
 甲霞様と育多様にせっつかれ、藍子殿下が私の上半身をゆっくり支え起こしてくださった。

「あ、ありがとうございます、藍子殿下」
「い、いや。俺が支えているから大丈夫だ。もっと寄りかかってもいいぞ」
「大丈夫? 食べられるかしら〜?」
「はい、食べます」

 お妃様にまで心配されては、食べないわけにはいきません。
 お粥には木のスプーンが入っていました。
 それを手にして、ほかほかのお粥を掬って口に入れると……なんとも言えない、口の中のかぴかぴしたものに、潤いが浸透していくかのような——。

「お、おいひいです……」
「そんなの当たり前ですわ」

 と、唇を尖らせた円歌様。
 どうやらこのお粥を作ってくださったのは、円歌様だったらしい。

「始祖様、始祖様にもお食事をお持ちしましたよ」

 そう、育多様が持ってきたお盆を私の頭の近くで眠っていた式神さんに差し出す。
 やはりあの子が中庭の灯籠(とうろう)の中にいた子、なんですよね?
 な、なんだか大きくなってます、よね?

「あ、あの、その式神さん……」
「式神? 始祖様のことか?」
「しそさま?」

 式神さんに名前があったのでしょうか?
 この式神さんは菜々様の式神さんなのでは。
 そう首を傾げると、菜々様は目を剥いて首と手を左右に全力でブンブン降り始めました。

「とんでもない! その方は、この世界唯一無二の正真正銘純血のドラゴン……! 我ら竜人族の始祖様! 黒檀(こくたん)様です!」
「え?」

 始祖様って、来月『竜誕祭』でお誕生日の?
 え? 生きてるんですか?
 え? この食いしん坊の式神さんが?

「そうだ、リセ。リセが始祖様を見つけてくれたのだな?」
「え? え、ええと、中庭の灯籠の中にいたので……お腹が減ってるみたいで、食事を……」
「やはりそうなのね!」