降り続ける雨音が人のいなくなった廊下に響き、窓に水滴の川をつくっていく────。




「……理事長、話聞いてくれなかったね」




 2人の視線は先程から足元ばかりを映している。

 生徒がほとんど帰ってしまった校舎は、天気のせいも相まって薄暗く重たい空気を纏っていた。女の声に男が応えることはなく、その表情は何を考えているのか想像し(がた)い。

 静かな校内には雨音と2人の足音だけが響き渡る。

 再び玄関まで戻って来た時、今まさに下校しようとしている1人の少女と鉢合わせた。しかし少女は急いでいたのか、男女には目もくれず足早に靴を履き、その場を立ち去ってしまう。

 傘を取り出そうと少女が鞄の中を漁った時、小さな何かが風にのって小さく宙を舞い、地面に落ちていった。

 視線を落としたままの男にはそれが見えていなかったようだが、ちょうど目撃していた女はすぐに知らせようと、靴の(かかと)を潰しながら駆け寄りそれを拾う。

 それは小さく切り取られた写真だった。
 切手ほどの大きさしかないそれには様々な文字やスタンプで飾られた中、恥ずかしそうに笑う少女とその少女に抱き着く少女の姿が映っている。

 そしてそれぞれに〝ゆみ〟〝あかり〟と平仮名で名前が書かれていた。

 女はすぐに男の元へ駆け寄ると早口で(まく)し立てる。




「ね、ねぇ! これってもしかして雨香麗ちゃんじゃ……!」




 そう言って女が写真を見せるも、男は呆れ顔で言った。




「ただのプリクラやろ。この子が柴樹の言ってた子かなんてわからへんし、そもそも、んな都合よく……っておい!!」




 男は頼りにならない、女の表情からその思いが垣間見えたかと思えば、そのまま雨の中、持ち主の少女の傘を追って走り出した。男も慌てて傘を開きあとを追う。




「君!」




 声が届く距離まで近づいた時、女が雨音に負けないよう少し大きな声で呼び止めれば、少女は小さく肩を揺らしながらもすぐに足を止め振り向いた。