「あ……」
お母さんには、私が人前で歌えなくなってしまった理由を話していない。
心配かけたくなかったから。
だけどお母さんは、私のそんな変化をずっと気にしてくれていたらしい。
「成長して恥じらいが出てきたのかな、なんて考えていたんだけど。お母さんは詩乃が歌う歌を聞くのが大好きだったから、ちょっと寂しかったのよ」
「そうだったんだ……。あのね、実は……。小五の時に学校の音楽のテストで、少し嫌なことがあって。『変な声』って、ある女の子に言われて。それで、歌うのが怖くなっちゃったの……」
「そうだったの……! ずっと気が付かなくて、ごめんね。本当に……」
お母さんはとても歯がゆそうに言う。
だけどお母さんは全く悪くないから、私は勢いよく首を横に振った。
「いいの! 私が自分で解決しなきゃいけない問題だったから……! 小さい頃にお母さんが、『詩乃は歌が上手だね』っていつも言ってくれて、すごく嬉しかったんだよ!」
「詩乃……」
「それに、もう歌うのが怖くないの。さすがに大勢の前でのライブはまだ緊張しちゃうから、今回は録音だけどね」



