バンドをやるかどうかについては、まだ考えていなかった。

 どうしよう、と思っていると。


「詩乃が入った後は、今までできなかったライブやりたいよなー」

「ラ、ライブ!?」


 とんでもないことを律くんが言い出して、私は戦慄してしまう。


「ライブハウスとかお祭りとかで、お客さんの前でやってみたいよなー」


 楽しそうに夢を語る律くん。

 だけど彼の言葉は、私にとっては恐怖でしかなかった。

 お客さんの前で。大勢の人たちの前で。

 私が、歌う……?

 ぼんやりと想像してみたら、その中にはニヤニヤ笑う姫奈ちゃんの顔があって。


「無理!」


 思わず私はそう叫んでいた。

 虚をつかれたような面持ちをするふたり。

 しかし構わず私はこう続けた。


「そんなの無理無理! 絶対無理! 私人前で歌うの無理だって、言ったよね!?」

「なんでだよ? さっき俺たちの前で歌ってたじゃねーか」


 さも不思議そうに律くんが言った。


「あ、あれは……! よくわからないけど……なんかできたっていうか……」


 今思い返してみると、よくふたりの前で歌えたなあと思う。