Re:START! ~君のバンドに、入ります~

 前奏を聞いているうちに、「絶対に無理」という気持ちが、次第に薄れてくる。

 代わりに私の中に生まれたのは、わくわくした気持ち、興奮。

 目の前には、マイクスタンドに刺さったマイクがあった。

 ――歌いたい。

 気づいたら私はマイクを手に取っていた。

 ――そして。


“悔しくて涙が出た日も うまくいかなくて落ち込んだ日も”


 私は知らず知らずのうちに、歌っていた。

 いつもひとりでカラオケ店で歌っているときと同じように。
 
 過去のトラウマのことなんて忘れて、思いっきり。


「……お前、やっぱめっちゃいいわ」


 一曲終わったところで、頬に汗をにじませながら、律くんが言った。

 その言葉がとても嬉しかった。

 そして歌っている間。

 ――なんて楽しいんだろう。

 ヒトカラの時の楽しさなんて比じゃなかった。

 世の中に、こんなに楽しいことってあるんだ!

 そんな気持ちで、いっぱいになっていた。


「よし! というわけで問題ないな! 詩乃、バンドに入れ!」

「……えっ!」


 律くんのその言葉に、我に返る私。

 確かに、すごく楽しかったけれど。