ロイのせいではない。
分かっていても、他に恨むほど想える人物を知らなかった。
両親。
ジェイダ。
ロイ。
幼いレジーの世界にいたのは、僅かにそれだけ。
あの日妹を奪った男は殺してやりたいほど憎かったが、見つけるまでには至らなかった。
――殺す?
(笑わせるな)
お前に何ができた。
ジェイダの居場所を必死になって突き止めても、いつだって遠く眺めているだけだった。
無事に生きているのを、楽しそうに笑っているのを。
それどころか、彼女が祈り子に選ばれた時だって。
きっと、役目なんてすぐに終わる。
ただそれらしくしていれば、命をとられることはない。
無理に連れ去れば、却って危険に晒すことになるのだ。
――あの時の二人のように。
それを彼は拐っていった。
「祈り子なんて呼ばせない」
ロイはそんなことを言ったっけ。
自分の大切な存在に、身勝手な役目を押しつけるなとも。
どっちが勝手――そう思った。
何も分からないくせに、甘い夢物語やあり得ない理想郷の為に、今ある平穏を壊すなと。
今、何となく無事に暮らしていける。
それを脅かすなと怒鳴りたかった。
あの時ロイに切っ先を突きつけながら、胸がチクリと痛みモヤモヤと広がっていた。
良心の呵責か、いいや――……。
(……何でだよ、畜生)
――父の顔が浮かぶ。
恋しい時は全く思い出せなかったくせに、こんなにも鮮明に。