それでも、これから一緒に過ごせばどうなることやら。
時間が経つほど情は移りやすくなるし、これから辛い目にも遭うだろう。
そんな時に優しくされれば、流されたくもなる。


(何の利用価値がある。この場に立つだけで震える女に)


父もアルバートも理解できない。
ジェイダに何ができるというのか。
見据えれば、ビクッと肩が揺れる。
本当にただ、引っ張ってこられたのだろう。

解放してやればいい。
両国の関係など、政治など、若い女性には面白くもないことではないか。
そうしたら、どうする?
父は連れ帰る以上の命令はださなかったが、その先の苦難は目に見えている。


(形ばかりでも側に置く。……確かにそれが安全策だな、アルバート)


『まさか、本気で惚れているのか』


嘲りの色をだすのに苦労した。
それほど驚いたのだ。
もちろんベタ惚れとまではいかないだろうが、好意を抱いている。
でなければ、こんなにも――。


(お前がそれほど、顔に出すとは)


激昂するはずがない。
当然ながら、一人の人間として許せなかったのだろう。
だが、アルバートはそれ以上に怒り、動揺していた。
つい先程まで不安そうにしていた、当のジェイダよりもだ。


(……時間をやろう、アルバート)


それまでに僅かばかりでも、何か見せてみろ。でなければ、今度こそ。


(……私か連れ去る)


ここからも、父の魔の手からも。
敵と言われる国の王城で背を向けながら、キャシディは人知れず決意した。