・・・
「お前はゆっくりするといい」
準備を整える、アルフレッドの衣擦れの音。
寝乱れたシーツの皺。
恥ずかしくて顔を上げられないのに、羞恥を煽るものは他にいくらでもあった。
「……はい」
いつからか変わった呼ばれ方も、くすぐったい。
側に寄るのも憚られるが、本心では引き留めたくて仕方がないのだ。
(ご公務に行かれるというのに)
『行かないで』とでも言うつもりだろうか。
たとえそれが別の女のもとだとしても、そんな権利はないだろうに。
「エミリア」
いい加減に顔を上げろと言うように、彼が呼んだ。
渋々ほんの少し、顎を上げると――。
「な……っ」
――瞼に唇が降りてきた。
「な、何を……」
変だろうか。
先程まで共寝しておきながら、これだけのことでそう訊ねるのは。
それでも、エミリアには慌てふためく出来事だ。
「私は行くが、うろちょろするなよ。……お前は寵愛を受けた妃だ」
いつかの言葉が繰り返される。
だが、二度目だとは思えない。
「はい。行ってらっしゃいませ」
初めて、こんな会話ができた。
夫婦、そのものの。
アルフレッドに言われたように、もう少しこのままでいるとしよう。
気怠さを言い訳に、もうちょっと味わっていたいから。
愛されているという、この幸福を。
【Emilia・終】