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『……ロイはそんなことしない』


泣くよりもまず、腹が立った。
彼の苦労を、努力を――彼が一生懸命送ってきた時間を蔑ろにされたようで。


『どうだか。随分綺麗な顔の王子様だもの。田舎娘を操るなんて簡単でしょうよ』

『……!! 』


とどめだった。
否、堪忍袋の緒がブチッと凄い音を立て、切れた気がする。


『その田舎娘の為に……この国の為に、あんなに尽くしてくれているんですよ!? そりゃ、確かに綺麗で格好いいですけど……! 』


どんな思いだっただろうか。
自国のことを思えば、葛藤もあったに違いない。
それを踏みにじるようなことは言ってほしくなかった。
ジェイダとしては、そんな気持ちだったのだが。


『……それくらいにしとけ』


往来のど真ん中、いつからいたのか、兄が苦虫を噛んだように止めに入った。


『お前としては、相互理解を求めて言ってるんだろうが。端から見れば、恋人の悪口を言われて拗ねているようにしか見えない』


首根っこを掴まれ、群衆の中から摘まみ出された。


『すぐに信じろ、仲良くしろと言う方が無理だ。それは分かる』


チラリと見上げると、言葉とは違い兄は明らかに不愉快そうだ。


『下らないことを言っているこの間も、あいつは抱えているんだろうよ。俺たちの分まで……それは、勝手だと言いたくなるかもしれないが』


――何もせず、文句だけつける人間が見下すことなどできるものか。